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  ショートストーリー  【自転車は風に乗って】短編小説 

 

(三十四) (三十五) (三十六)

(三十四)
「銅賞」を報じた新聞記事が高校の掲示板にデカデカと貼られ

部活の全国大会があった翌日の朝刊に大会の模様を伝えた記事が載った。四十行ほどの記事に写真が添えてある。「金賞」「銀賞」「銅賞」のほかに入選六校が記されていた。写真は「金賞」を獲得した高校の部活メンバーが肩を寄せ合って喜んでいる一コマ。「銅賞」の翔太のところは高校名と受賞理由が簡潔に記されていた。顧問で教頭の児島先生が「好奇心旺盛な部員たちの熱意が認められて嬉しい」とのコメントを寄せている。

高校ではさっそく掲示板に拡大した記事をデカデカと貼りだした。プライドの高い新聞部ですら全国大会で入選したことはないだけに、『不思議倶楽部』の「銅賞」は快挙といえるだろう。サークル誌の存在も知らなかった生徒もいるらしく、掲示板の前に足を止め「あっ、これこれ。ビックリしちゃった。まさか、うちの部活が銅賞になるなんてね」「朝、読んだわよ。この記事」「うちのお母さんなんか、朝から気味悪いほど機嫌がいいんだから」と女子が弾んだ声をあげていた。女生徒ほどまでに感情を露わにしない男子も「あ、読んだ」とか「新聞部は面目丸つぶれだよな」などと思いのままの感想を口ずさんでいた。

その日の昼休み、『不思議倶楽部』の部活スタッフ全員が校長室に呼ばれた。児島先生が校長に寄り添うようにして同席している。赤ら顔の校長はワイシャツから零れ落ちそうなお腹を突きだして「君たちの日頃の努力が実を結んだ。まずは、おめでとう。本校にとっても名誉なことであり、ほかの部活の励みになる。これからもいい誌面を作ってもらいたい」と激励する。

「銅賞」の賞状は部室に飾ることになった。大会の模様は三紙が取り上げた。記事に長短はあるが、広瀬はそれぞれの掲載紙を二十部ほど入手するようにと部員に命じ、翔太も新聞販売店に走り、事情を話して無料でわけてもらった。

部室にうず高く積まれた新聞の束を前にして広瀬がにやりとする。

「これで広告もとりやすくなったな」

麻美が頬を膨らませた。

「広告じゃありません。『不思議倶楽部』は商業誌ではないので、賛助会員といってください」

「悪い、わりい。訂正、賛助会員だった」

「そうよ」

二人は絶妙なコンビである。

「あ、それはそうと・・・」

広瀬が封筒を部員たちに突き出してきた。

「なに、それ」

部員たちは怪訝な顔をしている。

「シマがご褒美だって。金一封だよ。食事でもしろって。部活の参考資料を購入するとかは一切、考えずにぱあっと食って使えっていってた」

「いいとこ、あるじゃん」

二年生の部員がこう言うと、部員たちのあいだでニヤニヤした笑いが拡がっていく。

「何か、食べたいものがあるか。希望は」

広瀬が封筒をひらひらさせながら言う。金額から焼肉というわけにはいかない。マックではお釣りがあまり過ぎる。牛丼やお好み焼きではときめきがない。『不思議倶楽部』は食に関する記事をたびたび掲載しているが、いざ、自分たちが足を向けてみようとなると、ぴったりハマる店が見つからない。

「いいですか」

翔太が話の輪の中にはいってきた。

「蕎麦ってどうですか」

意外なアプローチに風向きが変わった。

広瀬が好奇の目を向けてくる。

「それ、いいかもな。いま、時期的には新そばだろう。翔太の蕎麦屋案にのった」

麻美も手をあげる。

「私も蕎麦屋、賛成」

部長と副部長の二人に押し切られる形で蕎麦屋で食事をするという流れになった。

「それはそうと、どこの蕎麦屋にするかだな。翔太、心当たりはあるのか」

翔太は幼い頃から知っている「長寿庵」を指名した。

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(三十五話)打ち上げは蕎麦屋で 


「本当かい。翔太、嬉しいよ」

「長寿庵」の昭二おじさんはいまにも涙をこぼさんばかりに喜んでくれた。昭二おじさんは翔太の父親・将司と幼友達。物心がついた頃から父親に連れていってもらっていたから、昭二おじさんは翔太をじつの「子供」のように可愛がってくれた。小学校時代、翔太がいじめの対象にされたときは親身になって学校側と掛け合ってくれたのもこの昭二おじさんだった。部活の全国大会には呼んだわけでもないのに会場に顔をみせた。「銅賞」になり部活が新聞に掲載されたことを純粋に喜んでくれている一人だ。掲載紙をまとめて購入したいがために駅の売店にまで足を向けたと翔太は父親から聞いている。

「その不思議なんちゃら、かんちゃらのメンバーって何人だ」

昭二おじさんはいまもって『不思議倶楽部』とは口にしない。正確な誌名をいくら教えてもその場では覚えているのだが、すぐに忘れてしまうので、自分の中ではいまもって「不思議なんちゃら、かんちゃら」なのである。

「七人」

翔太がこう言うと

「なんだ、たったそれだけか」

昭二おじさんは十人単位を想定していたらしい。

「こじんまりとしたものなので、畳の席のテーブルひとつで足りると思うよ」

「ぱあっとしないな」

「だって、部員は総勢七人しかいないんだから仕様がないよ」

翔太と昭二おじさんとの間には認識の開きがあった。部員の食事と考えている高校生と、慰労会と受け取っている店主。同じ新そばを食べるにしても品揃えが変わってくる。翔太はカツドンか、親子丼のついた蕎麦セットを思い浮かべているのに対し、昭二おじさんは単品の海老、アナゴ、野菜などの天ぷらのほかに、自家製の玉子焼きや蕎麦菓子、丼ものを想定していた。テーブルいっぱい並べようという魂胆である。

「あのね、僕らは高校生なの。お酒を飲むわけじゃないのでお腹がいっぱいになればいいんだから」

「全国大会で堂々の銅賞を獲った褒美とすれば侘しすぎねえか」

「そんなことないよ。おじさんのところのおいしい蕎麦にみんな満足すると思うよ。いっておくけど、僕らは高校生だからね。そのへんをくれぐれも忘れないで」

「あたぼうよ。分かってるわ、そんなこと」

食事会の司令塔となった翔太には念を押して置かなければならないことがもうひとつあった。

「予算のことだけど・・・」

児島先生から受けとった金一封は一万円である。これを七人で分けると一人当たり千五百円足らずである。となると蕎麦セットが妥当なところなのだ。

昭二おじさんは上の空で聞いている。

「ああ、分かった。翔太のいうことはもっともだ」

どこまで理解しているのか、翔太は昭二おじさんの性格、気性を知っているだけに願いどおりにしてくれるかどうか不安だった。おそらく、宴会料理が賑やかにテーブルに並べられるのだろう。しかも、おカネは受け取らない。そういうことをされては困るんだよねとぼんやりと考えていた。

その当日――。

「あのさ、広瀬部長から聞いたんだけど、これから行くお蕎麦屋さんのご主人て、全国大会の会場に来ていたんだって」

麻美が翔太に声を掛けてきた。

「みたいですね」

翔太はそっけなく答える。

「じゃあ、『不思議倶楽部』の事情にも詳しいわよね」

麻美は手にデパートの紙袋をぶら下げていた。店主への挨拶として持参したのだという。母親が持たせたと麻美は言った。

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(三十六)なせか、児島先生と祖母、父親までがやってきた


「何だこりゃ」

広瀬は間延びした声をあげた。蕎麦屋「長寿庵」には「貸切」の札が掛かっていたのだ。だし汁の匂いがほのかに暖簾を通して漂ってくる。

麻美が翔太のほうを振り向いた。

「・・・・・」

翔太はなにもいえなかった。悪い予感がする。引き戸をそろりと開けると、調理場で忙しなく手を動かしていた昭二おじさんが動きをとめ「いらっしゃい。待ってたよ」と笑顔を向けてきた。順子おばさんはテーブルを拭いている。畳の席の中央には長いテーブルが二脚あり、しかも「貸切」となっている。

「そのほうがいいだろう。ほかの客の目を気にしないですむのでゆっくり食事もできる。俺もこういう機会でもないと高校生のグループに会えないからな。だから、貸切にしたんだよ」

昭二おじさんはそう言って順子おばさんのほうに目を向けた。おばさんはにっこりと微笑んでいる。

「あれっ、こんなところに『不思議倶楽部』が置いてあるわ」

麻美が頓狂な声をあげた。昭二おじさんは翔太が部活にはいったときから、応援する意味でサークル誌の賛助会員になっている。

「知らなかった。ここ会員だったのね。ごめんなさい」

麻美はぺろりと舌を出し、紙袋を順子おばさんに差し出した。

「これ、うちのお母さんからです。受け取ってください」

「ご丁寧に。ありがとうございます」

順子おばさんが神妙な顔でこういう。

翔太の予測したとおり、料理は蕎麦セットではなかった。天ぷらや、卵焼き、カモ肉の燻製などが次々にでてくる。食い盛りの高校生にとってはお腹を満たされるということを知らないみたいに口にいれていく。部員の中には「白いごはんをください」というものまでいて、昭二おじさんも、順子おばさんも「作り甲斐がある」といって嬉しそうだった。昭二おじさんは「ビールがほしかったらいえ。俺が保護者代わりだから問題ない」と暗に未成年に飲酒を勧めるような発言をして、おばさんにきつくたしなめられた。

蕎麦が運ばれてくるころにはあらかたお腹はいっぱいで、だけど、食欲だけは衰えることを知らずに、蕎麦やをたいらげていく。

そのとき、意外な人物が三人暖簾を掻き分けてはいってきた。ひとりがシマこと、児島先生である。菓子袋持参でひょっこり現れた。もうひとりは翔太の祖母・君枝である。昭二おじさんと祖母とは顔馴染だった。

「先生、ご無沙汰してます」

昭二おじさんは子供のように大きな声で祖母に挨拶した。君枝はにこにこしながら、手土産を順子おばさんに差し出す。続いて姿をみせたのは翔太の父親・将司だった。

「ちわっ」

挨拶はこれだけだ。こちらは手ぶらである。よれよれのGパンに、てれてれのジャンパー。将司と児島先生は初対面だった。人見知りする児島先生はもじもじしてどこか落ち着かない。間にはいったのが君枝だった。

「私の息子、将司です」

将司がひとなつっこい顔をしてぺこんと頭をさげる。

「こちら、私の教え子の児島君」

児島先生は「生徒たちからシマとニックネームで呼ばれています」とへんな自己紹介をした。

「こういう機会でもないと、昭ちゃんにも会えないし、児島君とは最近、よく会っているけどね」

君枝が含み笑いを浮かべながら言った。 

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